スーパーの鮮魚コーナーに並ぶ銀色に輝く切り身を、そのまま刺身にして食べたいと考えたことがあるかもしれない。しかし、通常の「シャケ」を生で口にすることは極めて危険だ。生食と加熱用の違いを決定づけている唯一にして最大の要因は、寄生虫アニサキスの危険性にある。
日本近海を回遊する天然の鮭(シロザケなど)は、海洋でオキアミやイカ、小魚などを捕食して育つ。この海洋生態系の食物連鎖の過程で、アニサキスの幼虫が内臓や筋肉組織に取り込まれるリスクが避けられない。厚生労働省が公表している食中毒統計でも、アニサキスによる激しい腹痛や嘔吐の事例は依然として上位を占めており、天然鮭の生食は厳禁とされてきた。
一方、私たちが普段刺身や寿司で口にする「サーモン」は、天然鮭と養殖サーモンの違いを熟知したうえで、安全性を工学的に担保した養殖魚だ。生食用として流通するサーモンは、孵化の段階から人工配合飼料(ドライペレット)のみを与えて育てられる。天然の餌を一切遮断することで、アニサキスの体内侵入ルートを物理的に断ち切っている。
さらに、万が一の混入リスクを想定した刺身用サーモンの安全基準も極めて厳格だ。国際食品規格(Codex)や各国の衛生基準では、「マイナス20度以下で24時間以上」または「マイナス35度以下で15時間以上」の完全冷凍処理が義務付けられている。この冷凍プロセスによって仮に寄生虫が存在していても死滅するため、安全な生食が実現している。