土手の伊勢屋を語る上で欠かせないのが、店舗自体が持つ国の登録有形文化財としての歴史的価値と、それを背負う後継者の存在です。
現在の店舗は、関東大震災後の昭和初期に建て替えられた貴重な木造建築であり、第二次世界大戦の東京大空襲でも奇跡的に延焼を免れました。吉原遊郭の入口である「吉原大門」近く、かつて日本堤の土手沿いに行き交った文豪や職人たちが愛した面影をそのまま今に伝えています。店内の柱や梁、磨き込まれた調度品のひとつひとつが、東京の下町文化を物語る生き証人です。
こうした文化財級の店舗を維持することは容易ではありません。油を扱う飲食店でありながら木造建築の火災リスクを極限まで抑え、耐震性や設備改修を繰り返しながら味を守り続ける作業には、並大抵ではない労力とコストが伴います。「暖簾を下ろしたのではないか」という外野の騒音をよそに、当代の職人たちは仕入れ先の目利きから油の温度管理に至るまで、明治期から受け継がれる江戸前の粋を愚直に貫いています。