西洋美術史において、この花を極限まで劇的なモチーフへと高めた芸術家といえば、フィンセント・ファン・ゴッホをおいてほかにいない。彼は精神の危機と闘いながら療養院に身を寄せていた晩年、猛烈な執念をもって絵画『アイリス』を描き上げた。
精密な細部描写を追及する伝統的なボタニカルアートの文脈から大きく踏み出し、ゴッホは自らの魂の叫びを土の匂いと花の生々しい生命力に昇華させた。画面いっぱいに広がる濃密な青紫の花々と、力強くうねる緑の葉。その圧倒的な対比と質感は、植物の形態学的美しさと人間精神の交差点を見事に捉えている。