サザンカとツバキは、どちらも植物学的にツバキ科ツバキ属(Camellia)に分類される極めて近縁な種です。それにもかかわらず、なぜ散り方に決定的な違いが生じるのでしょうか。そこには植物生理学的な構造進化の秘密があります。
植物生理学が解き明かす「離層」の形成位置
植物の花びらや葉が落ちるとき、植物ホルモン(エチレンなど)の作用によって細胞壁を分解する「離層(りそう)」という特殊な細胞層が形成されます。 サザンカの場合、個々の花弁の付け根それぞれに離層が形成されるため、風や物理的刺激を受けると花びらが1枚ずつ剥がれ落ちます。 一方のツバキは、花弁の基部と多数の雄しべが融合して「雄しべ筒」を形成しています。ツバキでは花弁単体には離層が形成されず、花と枝を繋ぐ「花柄(かへい)」の付け根部分に一括して離層が形成されます。結果として、花全体が結合したまま丸ごと抜け落ちるのです。
「武士が首落ちを嫌った」は後世の都市伝説?歴史的エビデンス
ツバキに関して古くから流布している「花首ごと落ちる姿が打ち首を連想させるため、江戸時代の武士に忌み嫌われた」という俗説があります。 しかし、歴史資料や園芸史の公的記録を検証すると、この説は幕末から明治以降に生まれた俗説であることが判明しています。 実際、江戸時代初期の第2代将軍・徳川秀忠は無類のツバキ愛好家であり、江戸城内に膨大なツバキコレクションを築きました。大名や旗本、上級武士の間でもツバキの品種改良は空前の大ブームを巻き起こし、加賀藩前田家や熊本藩細川家などでも独自の「肥後椿」が熱心に育成されていました。茶の湯文化においても、千利休の時代からツバキ(特に侘助)は「茶花の女王」として最上級の格を持って愛され続けています。