袴田事件の根底にあるのは、当時の警察による前近代的な「自白偏重捜査」と、一度走り出したら止まらない組織の構造的欠陥です。
静岡県警は当時、真夏の猛暑の中で連日16時間以上にも及ぶ過酷な取り調べを行いました。睡眠を奪い、棍棒で小突くなどの暴行を加え、トイレにすら行かせない極限状態の中で作成されたのが、45通もの供述調書です。裁判所は後に、このうち実に44通を「任意性がない」として証拠から排除しました。
さらに深刻なのは、客観的な物証が存在しない焦りから、国家権力である警察自身が証拠の偽造に手を染めたという事実です。ストーリーに合致しない目撃証言や痕跡は握りつぶされ、「袴田犯人説」を補強する事実だけが恣意的に積み上げられました。
法医学者や鑑定人の見解を軽視し、都合の良い鑑定結果だけを採用した検察、そして初期の裁判で警察の筋書きを鵜呑みにして死刑判決を下した裁判官の責任も極めて重いと言わざるを得ません。