本作が「伏線回収の教科書」と称賛される理由は、第1巻の第1話から撒かれていた無数のサインが、終盤に向かってドミノ倒しのように一つの真実へと収束していくカタルシスにあります。主要な伏線とその回収経路を振り返ると、原作者・篠原健太氏の冷徹なまでの構成力に圧倒されます。
例えば、序盤でカナタが語った「陸上競技で挫折した恩師の死」というパーソナルなエピソードは、単なるキャラクターの味付けではありませんでした。その恩師こそがカナタのオリジナル(元オリンピック選手)であり、肉体選定の理由に直結していました。また、ルカの「インターセックス(性分化疾患)」という告白も、親である政治家マルコ・エスポジトが、法規制の隙間を縫ってクローンを作成した際の医療的エラーと政治的思惑を示す重要な証拠となっていました。
そして物語は、誰一人命を落とすことのない「全員生存(生き残り)」という最高の奇跡へ着地します。自暴自棄となりワームホールへ身を投げようとしたシャルスを救うため、キャプテンであるカナタは自らの右腕を犠牲にして光球へ飛び込みました。腕を失いながらも「お前を絶対に連れて帰る」と叫んだカナタの魂のリーダーシップが、長年シャルスを縛り付けていた精神の呪縛を打ち砕いたのです。