かつて昭和から平成初期にかけて、平日の19時から21時は全国ネットの地上波で読売ジャイアンツ戦をはじめとするプロ野球中継が当たり前のように放送されていました。当時の視聴率は20%を超えることも珍しくなく、一家団欒の中心に野球がありました。しかし、民間放送連盟やビデオリサーチの公表データを振り返ると、2000年代中盤から視聴率は単発の特別試合を除いて1桁台に低迷し、2026年現在の民放キー局におけるレギュラーシーズンの全国生中継は年間数試合程度にまで激減しています。
地上波撤退の最大の理由は、番組編成上の費用対効果(ROI)の悪化と延長リスクにあります。野球の試合は試合終了時刻が予測できず、中継延長によって後続のドラマやバラエティ番組の視聴率・スポンサー契約に甚大な影響を与えます。さらに、若年層を中心とするテレビ離れと「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重視する視聴傾向が定着した結果、3時間を超える長尺生コンテンツは、マス向け地上波ビジネスモデルとの親和性を決定的に失いました。
メディア社会学の観点から見れば、これは「国民的娯楽の解体と個別最適化(パーソナライゼーション)」の帰結といえます。ファン層の関心が「野球という競技全体」から「特定球団・特定選手の推し活」へと細分化したことで、全国一律のマス放送よりも、熱狂的なコア層が課金する有料CS放送やインターネット配信プラットフォームへ放映権ビジネスの主戦場が不可逆的に移行したのです。