日本ショートスリーパー育成協会を語る上で避けて通れない最大の論点が、短時間睡眠の危険性と医学的根拠です。堀大輔氏が「長時間の睡眠は不要であり、短眠こそが健康を維持する」と主張するのに対し、日本睡眠学会をはじめとする主流の医学界は真っ向から対立しています。
多くの睡眠専門医の見解において、成人の至適睡眠時間は「7時間前後(6〜8時間の範囲)」であることが疫学調査によって一貫して示されています。医学界が短時間睡眠に強い警告を発する根拠は、以下の確立された生理メカニズムに基づいています。
- 脳内老廃物の排出阻害(アミロイドβの蓄積):睡眠中、脳脊髄液が脳内を循環し、アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβなどの老廃物を洗い流す「グリンパティック系」が活性化します。短睡眠ではこの排出が不十分になり、将来的な認知症発症リスクが急上昇することが多くの論文で証明されています。
- 心血管系疾患・代謝異常のリスク:慢性的な睡眠不足は交感神経を過剰に刺激し、血圧の上昇、インスリン抵抗性の悪化、免疫力の低下を招きます。国立がん研究センターなどの大規模コホート研究でも、睡眠時間が5時間未満の群は、7時間前後の群に比べて心筋梗塞や糖尿病、脳卒中の発症リスクが有意に高いことが報告されています。
- 認知機能と情緒の低下:「自分は眠気に慣れた」と本人が自覚していても、認知機能テストを実施すると、徹夜明けと同等の判断力低下や反応速度の遅延が起きている現象(睡眠負債の不可視性)が確認されています。
さらに睡眠医学では、6時間未満の睡眠でも健康に一切支障をきたさない「真正のショートスリーパー」は、遺伝子(DEC2やADRB1などの変異)による先天的な特異体質であり、全人口の1%未満に過ぎないとされています。専門医の立場からは、「後天的な訓練によって遺伝的構造を変えることは不可能であり、短眠を強制することは単なる『慢性睡眠負債の蓄積』に他ならない」という厳しい結論が下されています。