美しい自然の情景を切り取ったように見えるこの言葉ですが、その発祥は単なる植物観察の記録ではありません。桜梅桃李の由来は仏教思想に深く根ざしています。
日本の歴史においては、鎌倉時代の僧侶・日蓮が残した著作(御書)の一節『御義口伝』の中に「桜梅桃李の己々(おのおの)の当体を改めずして」という記述が見られます。これは、成仏(人間としての最高の境地を開くこと)とは自分以外の何者かに生まれ変わることではなく、桜は桜のまま、梅は梅のまま、自らのありのままの生命を開花させることであると説いた教えです。
この「当体を改めず」という考え方は、外見や能力を他人に合わせて変質させるのではなく、自分に備わっている本質的な良さをそのまま活かし切るという、本質的な自己実現の論理を提示しています。何百年もの時を経てもなお色あせない普遍的な人間肯定の思想が、この四文字には込められているのです。