吉字屋本店の正式な読み方は「きちじやほんてん」です。そのルーツは、戦国時代の甲斐国を震撼させた大事件にまで遡ります。
永禄10年(1567年)、相模の北条氏康と駿河の今川氏真が同盟を結び、武田領国への塩の供給を断つ「塩留め」を断行しました。内陸の山国である甲斐・信濃の人々は深刻な塩飢餓に陥りました。この窮状を救ったのが、越後の上杉謙信による塩の供給、すなわち後世に語り継がれる「敵に塩を送る」の美談です。公式社史や関連資料によると、日本海側から険しい峠を越えて運ばれてきたその貴重な塩を甲府の城下で引き受け、領民の命を支える商人として立ち上がったのが吉字屋の草創期と伝えられています。
その後、元亀3年(1572年)に初代が屋号を掲げて本格的な商いを開始。江戸時代には甲府城下町(現在の甲府市中央・青沼エリア)で塩問屋・穀物問屋として確固たる地位を築き、幕末から明治へと時代が移り変わる中で「灯火用の菜種油」や「石油」の取り扱いへと舵を切りました。主力を塩・油から近代の化石燃料へ、そして現代のLPガスや再生可能エネルギーへと、生活に直結する基盤物資を絶やすことなく供給し続けてきた歴史そのものが、同社のDNAとなっています。