実母との壮絶な関係性は、女優・小泉今日子の表現力にも決定的な深みを与えた。相米慎二監督や黒沢清監督らの作品で見せた乾いたリアリズム、そして豊田利晃監督の映画『空中庭園』で演じた「秘密のない完璧な家庭」を演出しようとして崩壊する母親役は、彼女自身の原風景と奇妙に共鳴する傑作として映画史に刻まれている。さらに黒沢清監督の『トウキョウソナタ』でも、崩れゆく家族の中で踏みとどまる妻・母の孤独を凄みのある佇まいで体現した。
一方で、社会現象となった宮藤官九郎脚本の国民的ファミリードラマ『あまちゃん』では、かつてアイドルを目指して上京し、挫折して故郷に戻ったシングルマザー・天野春子を熱演。娘への過干渉と不器用な愛情が入り混じるその姿は、小泉自身の母親の面影と、自らの歩んできた道が重なり合って生まれた奇跡的な名演だった。現在もNHKオンデマンドやNetflixなどの配信プラットフォームでこれらの作品が再評価され続ける理由は、彼女が演じる母親像に、作り物ではない本物の生の摩擦が刻まれているからに他ならない。