最大の背景として挙げられるのが、イタリアのルネサンス美術である。荒木氏は青年時代にイタリアへ渡り、本場の美術品を肌で体感した。特に、ミケランジェロ・ブオナローティが手掛けた彫刻群や壁画からは決定的な影響を受けている。『ダヴィデ像』に代表される古典彫刻の美しさは、彼の身体表現の骨格となった。
ここで重要なキーワードとなるのが「コントラポスト」と呼ばれる古代ギリシャ・ローマからの伝統的な彫刻技法だ。体重の大部分を片方の足にかけ、腰と肩の傾きをあえて左右不対称にすることで、静止した像に柔らかな立ち姿とダイナミックな生命感を与える。荒木氏は、このコントラポストの原理をさらに誇張し、人間の可動域の極限まで捻りを加えた。彫刻的な安定感と漫画的な狂気が同居するあのシルエットは、まさにルネサンス美術の正統な進化形と言えるだろう。