食後30分の筋トレが「逆効果」と断言される最大の理由は、体内における血液の分散(血流の奪い合い)にあります。人間の体内を循環する血液量は体重の約8%(体重70kgの成人で約5.6リットル)と有限であり、需要に応じて各臓器へ優先配分される仕組みになっています。
食後の平穏時、心拍出量の約25〜35%は消化管(胃、腸、肝臓)へ集中的に送り込まれます。胃壁や腸粘膜に血流を集中させることで、消化液を大量に分泌し、激しい蠕動(ぜんどう)運動を支えるためです。ところが、この状態でスクワットやベンチプレスなどの高強度な無酸素運動を開始すると、交感神経が急激に跳ね上がり、活動筋(骨格筋)への血流確保が最優先されます。骨格筋は最大で全身の血流の80%以上を要求するため、消化器官の血管は強制的に収縮させられます。
その結果、胃腸は突如として深刻な虚血状態に陥ります。これが消化不良と胃もたれの理由です。消化されずに胃内に長くとどまった食物は異常発酵を起こし、強い吐き気、胃痛、胸やけを誘発します。さらに、脳への血流も一時的に不足し、運動中に急激な冷や汗やめまい、失神を引き起こす「運動誘発性迷走神経反射」の危険性も格段に跳ね上がります。
筋肥大の観点からも、この血流の競合は極めて不利に働きます。筋肉の修復と合成を司るmTORシグナル伝達系は、十分なアミノ酸濃度と安定した血流を必要とします。消化器官の機能停止によってアミノ酸の吸収プロセスそのものが頓挫すれば、激しい筋破壊に対して補給が間に合わず、期待通りの筋タンパク質合成(MPS)が得られないという皮肉な結末を迎えることになります。