業務内容の高度化や国家資格化にもかかわらず、なぜ動物看護師 年収が低い理由は解消されないのでしょうか。取材を進めると、個々の病院の怠慢ではなく、動物医療業界全体が抱える「3つの根本的な歪み」に行き当たります。
第一の要因は、公的医療保険が存在しない「完全自由診療」の価格設定リスクです。
人間の医療であれば、健康保険制度によって診療報酬が公的に定められ、患者負担は1〜3割に抑えられます。しかし動物医療は全額自己負担が原則です。診療費や入院費を値上げして人件費原資を増やそうとすれば、飼い主の受診控えや他院への流出を招くリスクを直結して背負うことになります。ペット保険の加入率は伸びているものの未だ欧米ほど普及しておらず、院長側が「スタッフの給料を上げたくても、診療費に転嫁できない」というジレンマに直面しているのです。
第二の要因は、全国約1万2000軒に及ぶ動物病院の「零細企業体質」です。
国内の動物病院の大半は、院長が個人事業主または小規模な医療法人として運営する「街のクリニック」です。一般企業のように人事評価制度や段階的な昇給テーブル、退職金積立が制度化されていない組織が多く、経営者の裁量ひとつで待遇が左右されます。社会保険の加入義務化や労務管理の是正は進みつつありますが、福利厚生や昇給の原資を潤沢に生み出せる規模の病院は限られています。
第三の要因は、医療社会学で指摘される「感情労働とやりがい搾取の共依存」です。
「動物が好き」「苦しむ命を救いたい」という献身的な動機で入職する人が多い職種だからこそ、過酷な残業や薄給を「動物のため」という精神論で耐え忍んでしまう構図が長年放置されてきました。経営側もまた、スタッフの純粋な善意や情熱に甘え、労働対価としての適正な給与体系を構築することを後回しにしてきた歴史があります。健全な「心理的バウンダリー(仕事と奉仕の境界線)」が引かれないまま疲弊し、心身を壊して業界を去っていく循環が続いてきたのです。