猫の牙が皮膚を貫通したと分かった瞬間、1分1秒を争って実行すべき猫に噛まれた時の応急処置が存在します。初期対応の成否が、その後の切開手術や長期入院を回避できるかどうかの分水嶺となります。
何よりも先に行うべきは、傷口の流水洗浄と消毒法における「物理的な菌の洗い流し」です。水道の蛇口を全開にし、患部に微温水または水道水を勢いよく当てながら、最低でも5分から10分間、傷口の周囲を強めに揉み出すようにして血や組織液と一緒に細菌を押し流してください。「痛いから」と表面を軽く濡らす程度で済ませてはいけません。流水の水圧と流量によって、皮下に残存する細菌数を極限まで減らすことが医学的に最も有効な初期防衛策です。
ここで絶対に犯してはならない重大なミスが3点あります。
- 傷口を絆創膏やガーゼで密閉すること:前述の通り、原因菌の多くは空気を嫌う嫌気性菌です。密閉すると創部内の酸素が遮断され、細菌の増殖速度が数倍に跳ね上がります。洗浄後は清潔なガーゼを軽く当てる程度にとどめてください。
- いきなり高濃度の消毒液を流し込むこと:市販のアルコールや強い消毒薬は、傷口の奥にある正常な自己組織まで化学的に破壊し、かえって生体の治癒力や免疫応答を低下させます。まずは水道水による大量洗浄が世界的な創傷処置の標準ガイドラインです。
- 口で毒を吸い出そうとすること:人間の口腔内にも大量の雑菌が存在するため、傷口に新たな複合感染を引き起こす極めて危険な行為です。
流水洗浄を終えたら患部を清潔なタオルで保護し、心臓より高い位置に保ちながら(拳上)、直ちに医療機関へ向かってください。