電撃婚の陰で、誰よりも早くその決断を伝えられていた人物がいる。恩師・長嶋茂雄だ。読売ジャイアンツへの入団以来、二人三脚で素振りを繰り返し、国民的打者へと育て上げてくれた師への敬意は、海を渡ってなお揺らぐことはなかった。
読売ジャイアンツという巨大球団の4番を務める重圧は、並大抵のものではない。日常のすべてが一挙手一投足に至るまで監視され、私生活の平穏など望むべくもない環境で若き日々を過ごした松井。その過酷な経験が、「守るべき聖域」を明確に意識させたのだろう。長嶋に結婚の意志を伝えた際、ミスターは満面の笑みで背中を押したと伝えられている。師への仁義を尽くしたうえで、自らの手で静謐な家庭を築く。その姿勢には、伝統球団の屋台骨を背負い続けた男の矜持が色濃く宿っていた。