インターネット上やドキュメンタリーで今なお議論される大きな論点が、「飛行中に主翼の損傷に気付いていれば、乗組員を救出できたのか?」という疑問です。
事故後に設置された「コロンビア号事故調査委員会(CAIB)」の公式報告書は、この問題について極めて踏み込んだシミュレーション結果を公表しています。
結論から言えば、「理論上、アトランティス号を用いた緊急救助ミッション(STS-300)は極めてギリギリで成立し得た」とされています。
当時、ケネディ宇宙センターでは次のフライト(STS-114)に向け、シャトル「アトランティス号」の準備が着々と進められていました。もし打ち上げ直後(飛行2日目まで)に断熱材衝突の危機的状況を正確に把握し、最優先の緊急体制を発令していれば、昼夜兼行の突貫作業によって2003年2月10日前後にアトランティス号を打ち上げることが可能でした。
コロンビア号の乗組員7名が機内の電力と二酸化炭素除去剤(水酸化リチウム・キャニスター)を極限まで節約して生命維持を延長した場合の限界日は2月15日頃と試算されていました。軌道上で2機がランデブーし、宇宙遊泳(EVA)によって7名全員をアトランティス号へ移乗させるシナリオは、技術的タイムラインとしては成立していたのです。
しかし現実には、現場エンジニアからの「軍の偵察衛星を使って機体底面を撮影し、損傷状況を確認したい」という3回にわたる正式な要請を、マネジメント層は「安全上の重大リスクではない」「これまでの飛行でも剥落は起きていた」として却下しました。救出の可能性を検証する機会すら、組織の硬直した判断によって完全に奪われていたのです。