筋肉が過去の記憶を保持できる最大の要因は、骨格筋細胞の特異な構造にあります。一般的な人体の細胞には核が1つしかありませんが、骨格筋は複数の核を持つ「多核細胞」です。
ハードな筋トレを行って筋肉に強い負荷をかけると、筋繊維の周囲に存在するサテライト細胞(筋幹細胞)が活性化します。サテライト細胞は分裂・増殖し、既存の筋繊維と融合して自らの「核」を筋繊維内へと提供します。これが筋肥大の必須プロセスです。1つの核が管理できる細胞質領域(筋核ドメイン)には物理的な上限があるため、筋肉を限界以上に大きくするには、サテライト細胞から核を取り込んで「筋核の数」そのものを増やす必要があります。
かつては「筋肉が萎縮すれば余分な筋核もアポトーシス(細胞死)で消滅する」と考えられていました。しかし、筋核オーバーロードに関する追跡研究により、筋肉がどれほど細くなっても一度獲得した筋核は長期間死滅せずに残り続けることが判明しました。トレーニングを再開した際、サテライト細胞を融合させて核を増やすという最も時間のかかる工程をスキップできるため、タンパク質合成の指示を即座に大量発令し、急速な復活を遂げることができます。