フルート奏者が最も神経をすり減らすのが、高音域におけるフルート第3オクターブトリルです。倍音列を利用して発音する高音域は、管内の音響節(ノード)が極めて狭いため、指の開閉によって気柱の共鳴ポイントがわずかでもズレると、オクターブ下の音が混ざったり完全に発音が途絶えたりします。
例えば、難所として名高い高音G-Aのトリル。正規の運指で左手薬指を動かそうとすると、指の腹がキイから滑ったり、音程が極端にぶら下がったりします。ここで使われるのが、右手のトリルレバーを併用するフルート特殊運指トリルです。左手は高音Gの指(親指・人差し指・中指・薬指)をしっかり押さえたまま、右手人差し指で第1トリルキイを開閉するだけで、クリアかつ破綻のないAの倍音が立ち上がります。
また、フルート高音トリル運指におけるもう一つの要所が「E3-G3」などの短3度トリルです。ここでは通常閉じているはずのキイをあえて開放する変則運指が効果を発揮します。高音域のトリルでは、「どのキイを塞ぐか」よりも「管体のどの位置に空気の抜け道を作って倍音を誘発するか」という発想の転換が成否を分けるのです。