つけ場に立つ齋藤孝樹氏の手元を凝視しても、無駄な動作は一切見当たらない。指先から繰り出される手粉の舞、シャリを切り出す正確さ、そしてネタとシャリを一瞬で一体化させる手返しのスピード。一連の流れはまるで、鍛錬を重ねた舞踊家や音楽家の演奏を観ているかのようだ。
齋藤氏の握る鮨の最大の特徴は、口に入れた瞬間にシャリがふわりと解け、ネタの旨味と酸味が完璧な同心円を描いて広がる点にある。赤酢と米酢を絶妙な塩梅でブレンドしたシャリは、主張しすぎず、それでいて魚の脂や旨味をしっかりと受け止める。温度管理も徹底しており、マグロにはマグロの、白身には白身の最高に旨味が引き立つ温度帯が存在するのだという。この極小の違和感すら排除する姿勢こそが、世界中の味覚を魅了してやまない。