莫大な情熱と資金を投じて完成させた田園調布の城を、浜崎あゆみはなぜ手放したのでしょうか。不動産登記や当時の報道各社の取材データによると、売却されたのは2010年代前半。取引価格は約3億5000万円から4億円程度と報じられ、投じた建築費や土地取得額から見れば「大幅な損失」「買い叩かれた」と週刊誌を賑わせました。この売却劇の背景には、大きく分けて3つの決定的な事情が存在します。
第一の要因は、東日本大震災(2011年)を契機とする価値観の激変です。震災直後、都内全域で電力不足や計画停電が現実味を帯びる中、全館空調やエレベーター、夜間照明に膨大な電力を消費する超巨大邸宅の維持に対して、彼女自身が強い違和感を覚えたと伝えられています。被災地支援に奔走する中で「物質的な巨大さへの執着」から脱却し、生活空間を適正化したいという内省的な変化が訪れました。
第二の要因は、グローバルな生活拠点のシフトと結婚生活です。2011年のオーストリア人俳優との結婚、その後のアメリカ・ロサンゼルスを拠点とした生活設計により、日本国内に留まる日数が激減しました。年間の大半を海外のレコーディングスタジオやツアー先で過ごす中で、田園調布の広大な屋敷は維持管理費(固定資産税や専属スタッフの人件費を含め年間数千万円規模)だけが垂れ流される状態となっていたのです。
第三の要因は、実生活における都心アクセスの不便さでした。田園調布は閑静な住環境を誇る反面、エイベックス本社のある青山や主要テレビ局、リハーサルスタジオが集中する港区・渋谷区中心部へは、首都高速の渋滞を含めると片道40分から1時間近くを要します。深夜や早朝の移動が日常茶飯事であるトップアーティストにとって、日々の移動ロスは想像以上の身体的負担となっていました。結果として、より機動性の高い都心部への回帰を決断したのが売却の真相です。