都合が良すぎる態度を指して「虫がいい」と表現するようになった背景には、古代中国の道教思想に登場する「三尸(さんし)の虫」という概念が深く関係しています。道教の教えでは、人間の体内には生まれつき3匹の虫が棲みついており、宿主の悪事や欲望を監視していると信じられていました。この虫は「庚申(こうしん)の日」の夜、人が眠っている間に体内を抜け出し、天帝に宿主の悪行を告げ口して寿命を縮めさせると恐れられていたのです。
この信仰が日本に伝来すると、平安時代から江戸時代にかけて「人の感情や体調の異変は、腹の中にいる虫の仕業である」という独自の「体内虫(腹の虫)」の感覚へと変化していきました。「虫の居所が悪い」「腹の虫がおさまらない」「虫が好かない」など、感情を虫に例える慣用句が日本語に数多く存在するのもこのためです。
つまり、「虫のいい話」における「虫」とは、人間の本能や身勝手な欲望そのものを象徴しています。自分の欲望ばかりを最優先させ、自分にとって都合良く振る舞う態度を「虫(=自分の内なる欲求)にとって都合がいい」と皮肉ったことが、この表現の起源です。