デジタル大辞泉などの各種国語辞典において、「言うに事欠いて(あるいは『言うに事を欠いて』)」は、「非難の意を込めて、言わなくてもよいことをわざわざ言う」「ほかに言いようがあるだろうに、あえてその言葉を選ぶ」さまを指すと明確に定義されています。単に「変なことを言った」という客観的な事実描写ではなく、話者の側にある「信じられない」「どうしてその言葉が出てくるのか」という強い心理的動揺、すなわち呆れや怒りを表す慣用句の筆頭格です。
この慣用句の成り立ちを分解すると、日本語の深層心理が浮き彫りになります。言うに事欠いての語源は、文字通り「言おうとすること(言うに)」に対して「話題や言葉が足りなくなって困る(事に欠く)」という構造から来ています。「話すネタに困った挙句、そんな下劣な話題や暴言を持ち出してきたのか」という痛烈な皮肉が込められているのです。
人間関係の現場を取材すると、失言を放った本人は「軽い冗談のつもりだった」「場を和ませようとした」と釈明するケースが目立ちます。しかし、受け手にとって「言うに事欠いて」と感じられる発言は、相手の尊厳やデリケートな境界線(心理的バウンダリー)を踏みにじる内容であることが大半です。相手の知性や品性を根本から疑うニュアンスが含まれるからこそ、この言葉は日常会話の中でもひときわ重い切れ味を持っています。