「卵を産むのにどうやって母乳を与えるのか?」という疑問は、単孔類を語る上で最も驚きをもって迎えられるポイントです。
皮膚から母乳が汗のように滲み出る「乳腺域」
単孔類のメスには、有袋類や有胎盤類のような突起した「乳首(乳頭)」が一切存在しません。その代わり、腹部の皮膚の下に左右一対の発達した乳腺組織が広がっており、乳腺の開口部が毛根の周辺に集中しています。
授乳期になると、母親の腹部にある「乳腺域(ミルク・パッチ)」と呼ばれる部位から、汗が噴き出すように母乳が皮膚表面へと直接滲み出します。孵化した赤ちゃんは、母親の腹部に密集した毛に付着したミルクの雫を舌で舐め取る(ラップアップする)ことで栄養を摂取します。
母親の皮膚表面は外気に触れるため細菌感染のリスクがありますが、近年の生化学研究によって、カモノハシやハリモグラの母乳には強力な抗菌作用を持つ特固有のタンパク質(MLP:Monotreme Lactation Protein)が含まれていることが判明しています。この抗菌タンパク質は、薬剤耐性菌に対する新たな抗生物質開発の鍵としても世界中の医学研究者から注目を集めています。
ハリモグラ独自の「一時的な育児嚢」での産卵
カモノハシが巣穴の奥深くで卵を抱くのに対し、ハリモグラはさらに特殊な方法をとります。繁殖期を迎えたメスのハリモグラは、腹部の筋肉を収縮させて一時的なポケット状の窪み(仮性育児嚢)を形成します。
総排出腔から産み落とされた直径約1.5cmの卵は、器用に腹部のポケットへと収められ、孵化するまでの約10日間をその中で過ごします。孵化した赤ちゃん(現地では「プグル:Puggle」と呼ばれる)は、トゲが生え揃って母親が痛みに耐えられなくなる生後約50日前後まで、このポケットの中で母乳を舐めながら安全に保護されます。