この名画を真に理解するためには、それが描かれた物理的な空間を知る必要があります。『最後の晩餐』は額縁に入れて飾られるタブロー(板絵)ではなく、イタリア・ミラノにあるサンタ・マリア・デッレ・グラツィエ教会に隣接するドミニコ会修道院の食堂北壁に描かれた巨大な壁画(縦4.6メートル、横8.8メートル)です。
当時、食堂で食事を取る修道士たちから見ると、実際の食堂の壁の梁や窓から差し込む左手からの光が、そのまま絵画内の天井の梁や陰影へとシームレスに繋がるよう設計されていました。ここで極限まで突き詰められたのが、ルネサンスの代名詞である遠近法(一点透視図法)です。
レオナルドは壁画の中央、イエスの右こめかみの位置に小さな釘を打ち、そこから放射状に糸を張って部屋の輪郭線を描き出しました。すべての視線と空間のパースペクティブがキリストの頭部に収束する構造となっており、鑑賞者の目は無意識のうちにイエスの崇高な孤立へと引き寄せられます。
しかし、レオナルドの飽くなき探究心は、皮肉にも作品に最大の危機をもたらしました。湿気を嫌うフレスコ技法(漆喰が乾く前に一気に描く手法)を嫌い、油彩のように何度も塗り重ねて陰影を追究できるテンペラと油彩の混合技法を乾いた漆喰の上に試みたのです。その結果、食堂の湯気と湿気により、完成からわずか20年足らずで絵の具の剥落が始まりました。今日私たちが目にする画面は、幾度もの劣化、ナポレオン軍による馬小屋としての汚損、第二次世界大戦の爆撃という奇跡的な生還を経て残された、貴重な人類の遺産です。