走っている最中に生じる鋭い腹痛は、単なる筋肉痛や腹筋の疲労ではありません。体内では、激しい上下動と急激な運動負荷に伴い、主要な臓器と血流のダイナミックな再配分が行われています。走るとお腹が痛くなる原因と真相を紐解く最大の鍵は、左右に位置する巨大な実質臓器――肝臓と脾臓の生理的反応の違いにあります。
右脇腹の痛みと肝臓の血流|横隔膜を引っ張る靭帯の緊張
腹部の右上には、体内最大の臓器である「肝臓」が位置しています。成人で約1.2〜1.5キログラムもの重量を誇る肝臓は、安静時には全身の血液の約25%を蓄えています。しかし、急にスピードを上げて走り始めると、血液は酸素を大量に消費する脚の骨格筋へ優先的に送られ、肝臓内の毛細血管では一時的なうっ血や血流のアンバランスが発生します。
さらに見逃せないのが、解剖学的な構造です。肝臓は「冠状間膜」や「三角靭帯」といった強固な結合組織によって、呼吸筋である横隔膜の下面に吊り下げられています。走る際の上下動によって重い肝臓が下方向へ揺さぶられる一方、呼吸のために横隔膜は激しく上下運動を繰り返します。肝臓が下がり、横隔膜が上がる瞬間に靭帯が強く引っ張られ、これが神経を強烈に刺激して右脇腹の刺すような激痛へと変わるのです。これが右脇腹の痛みと肝臓の血流および靭帯牽引がもたらす決定的なメカニズムです。
左脇腹の痛みと脾臓の収縮|急な運動で起こる「予備血液」の動員
対照的に、左脇腹を襲う鈍く刺し込むような痛みの主役は「脾臓(ひぞう)」です。左上腹部、胃の裏側に位置する脾臓は、古い赤血球の破壊や免疫機能だけでなく、赤血球を豊富に含んだ濃縮血液を蓄える「血液の貯蔵庫」としての役割を担っています。
運動開始直後、筋肉が急激に酸素を要求すると、自律神経(交感神経)の働きによって脾臓が一気に収縮します。内部にプールされていた血液を全身の循環へと一気に押し出そうとする生理現象です。この脾臓の急激な自己収縮と周囲の被膜にかかる張力が、神経を通じて左脇腹の鋭い差し込み痛として知覚されます。ウォーミングアップ不足のままいきなりダッシュした際、左脇腹に激痛が走りやすいのは、まさに左脇腹の痛みと脾臓の収縮が準備なしに引き起こされた証拠といえます。