宮島を代表する銘菓「もみじ饅頭」は、明治時代後期に伊藤博文の冗談をきっかけに考案されたと伝えられていますが、その長い歴史において「揚げもみじ」が登場したのは比較的近年の出来事です。開発したのは、1912年(明治45年)創業の老舗和菓子舗紅葉堂でした。
誕生の背景には、時代の変化に伴う旅行スタイルの変化がありました。かつてのお土産菓子は「箱詰めを買って自宅や職場で配る」ことが主流でしたが、2000年代に入ると「旅先でしか味わえない出来立て体験」を求める観光客が急増します。当時の紅葉堂の職人や経営陣は、「もみじ饅頭の焼きたての美味しさを、参道を歩く参拝客に一番美味しいアツアツの状態で提供できないか」という試行錯誤を重ねていました。
そこで着目したのが、天ぷらの技法を応用して饅頭を油で揚げるという大胆な発想でした。しかし、単にもみじ饅頭を油に投入するだけでは、衣が油を吸いすぎて重くなったり、中の餡の水分が飛んでパサついたりする課題に直面します。研究を重ねた結果、饅頭の生地と餡の水分量を保ちつつ、極めて軽やかな食感を生む専用の特製天ぷら粉を独自開発。串に刺してワンハンドで食べられるスタイルを確立し、2001年(平成13年)に店頭販売を開始しました。
当初は「伝統の饅頭を揚げるなんて」と懐疑的な声もあったものの、一口食べた瞬間の「サクッ、ふわっ、とろり」という鮮烈な食感のコントラストが口コミやメディアを通じて一気に拡散。瞬く間に宮島を代表するソウルフードへと登り詰めました。