渥美清の伝説以来、神社には「断ち物(たちもの)」祈願の参拝者が後を絶たない。酒、煙草、甘いもの、あるいは特定の趣味。自らの血肉の一部とも言える執着を断ち切ることで、神に本気度を示す作法だ。
しかし、これは諸刃の剣でもある。古くから芸人の間では「小野照崎神社で願を掛けたなら、生涯その誓いを破ってはならない」と囁かれてきた。破れば手に入れた栄光が一瞬で崩れ去るという、いわば禁忌の誓约。それゆえ、遊び半分の気持ちで願をかけることは固く戒められている。
現在でも、オーディションを控えた若手俳優や、新作のヒットを祈願するプロデューサー、脚本家たちが密かに玉串を捧げに訪れる。ある大物映画監督は「ここに来ると、自分がどれほど覚悟を決めているかを試されているような気がする」と漏らす。本気で腹を括った者だけに開かれる扉が、ここには確かに存在する。