ネット上のレシピサイトやSNSでは、タイパ(タイムパフォーマンス)を重視するあまり「万能黄金比タレとして全ての調味料をあらかじめ混ぜ合わせて注ぐ」手法が広く流通しています。もちろん、手軽さの観点では否定されるべきではありません。しかし、老舗料亭の厨房や調理師専門学校の指導現場では、依然として段階的な調味が徹底されています。
都内の有名日本料理店で腕を振るう板前は、現場の実態について次のように語ります。
「家庭料理の失敗相談で最も多いのが『レシピ通りの分量を入れたのに、なぜか根菜の中心に味が染みていない』『肉がパサついて硬い』という声です。原因を掘り下げると、9割以上の方が調味料を最初から全部混ぜて一気に強火で煮込んでいます。特に砂糖と醤油を最初から同率で混ぜてしまうと、醤油の塩分がブロック膜のように作用し、甘みが絶対に奥まで入りません。」
大手レシピコミュニティや知恵袋の投稿を分析しても、「肉じゃがの肉が硬くなる」「煮豆の皮が破れて中が固い」といった悩みの根本原因は、まさに「塩分による早期の脱水」に集約されています。時短タレが有効なのは、肉野菜炒めのように表面に味をサッと絡める料理に限られます。食材の内部まで味を含ませる伝統的な和食においては、「さ・し・す・せ・そ」のステップを省くこと自体が、かえって手戻りや味の劣化を招くリスク要因となっているのです。