小田原を訪れる旅行者の多くが抱く最大の誤解は、「小田原の居酒屋なら、どこの店に入っても新鮮な魚が食べられる」という思い込みです。現場の流通実態を取材すると、知られざる複数の盲点が存在することが分かります。
第1の盲点は、「小田原漁港の休市日」に対する配慮の欠如です。小田原の市場は基本的に水曜日や日曜日、祝前日などに休市となる日があります。自社で生簀を持たない店舗や、仲買との直接取引パイプを持たない店舗では、市場が休みの翌日や当日の夜に前日仕込みの在庫や冷凍品を使用せざるを得ません。鮮魚目当てで訪れるなら、店舗がどのように仕入れ日を管理しているかを確認することが重要です。
第2の盲点は、名物である「小田原おでん」に対する認識不足です。単なるコンビニや一般的な居酒屋のおでんと混同されがちですが、本来の小田原おでんは、老舗蒲鉾店各社(籠清、鈴廣、丸う田代など)が丹精込めて作った練り物を使用し、澄んだ出汁で煮込んだ伝統の味です。さらに、辛子ではなく小田原特産の「曽我の梅干し」を使った梅味噌を添えて食すのが正統なスタイル覚です。この基本を押さえていないチェーン店のおでんを食べて「期待外れだった」と判断してしまうのは非常にもったいない誤認と言えます。
第3の盲点は、地酒とのペアリングです。小田原および足柄平野は、酒匂川の清らかな伏流水に恵まれ、「丹沢山」「松みどり」「残草蓬莱」「箱根山」といった極上の銘酒が醸されています。相模湾の脂の乗ったアジや白身魚には、香りを強調した吟醸酒よりも、旨味の乗った純米酒や燗酒が最も合います。こうした地酒の特性を熟知したペアリングを提案してくれる店かどうかが、名店を見極めるリトマス試験紙となります。