エコー写真を手にした親が検索窓に打ち込む言葉の中で、最も切実かつ不安を孕んでいるのが「首の後ろの黒い影」に関する情報です。これは専門用語でNT(Nuchal Translucency:胎児後頭部透亮像)と呼ばれ、妊娠13週のエコーでNT(首のむくみ)の厚みが計測されることがあります。
NTとは、妊娠11週0日から13週6日(胎児のCRLが45mm〜84mm)の期間に、すべての胎児の後頭部皮下に一過性で現れる生理的なリンパ液の貯留です。このむくみそのものは病気ではなく正常な成長過程でも観察されますが、この厚みが極端に増大している場合、染色体異常(21トリソミー/ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーなど)や先天性心疾患などのリスクが統計的に上昇することが知られています。
インターネット上では「黒い隙間が見えたから異常だ」「妊娠13週のエコーにダウン症の兆候があると言われた」といった極端な言説が散見されます。しかし、英国の胎児医学財団(Fetal Medicine Foundation: FMF)などの厳格な国際基準では、NTの計測にはミリ単位以下の極めて高度な技術が求められます。胎児の首が前屈または後屈していない中間位であること、羊膜と首の皮膚を混同していないこと、拡大倍率が画面の75%以上を占めていることなど、数々の必須条件を満たさなければ正確な値は算出できません。
一般的に、日本国内の臨床現場においてNTの厚みが3.0mm〜3.5mm以上計測された場合、専門的な遺伝カウンセリングや、より精密な出生前診断(NIPT=新型出生前診断、絨毛検査、羊水検査など)の選択肢について説明がなされる基準となります。しかし、厚みが3mm台であっても80%以上の胎児は染色体異常を伴わずに健康に出生しているという疫学事実を冷静に認識しておく必要があります。
近年では、初期胎児ドック(妊娠11〜13週頃)を専門に実施する胎児クリニックが増加しています。初期胎児ドックでは、NTの計測単独ではなく、以下の項目を複合的に観察することでスクリーニングの精度を高めています。