キックボクシングの起源を辿ると、実はタイではなく1960年代の日本に行き着きます。ボクシングのプロモーターであった野口修氏が、ムエタイの強靭さに着目し、空手やボクシングの技術を融合させた新たな格闘技興行として「キックボクシング」を立ち上げました。1966年に日本キックボクシング協会が設立され、「真空飛び膝蹴り」で知られる沢村忠氏の活躍によって国民的な熱狂を生み出しました。
対照的に、ムエタイはシャム王国時代の戦場格闘術(古式ムエタイ=ムエボラン)に端を発し、国王自らも修練した歴史を持つ神聖な伝統文化です。試合前には「ワイクルー(師や親、神へ感謝を捧げる舞)」を踊り、神聖なヘッドバンド「モンコン」や腕輪「パープラチアット」を身に纏います。試合中には伝統楽器「ピー・チャワー(木管楽器)」や「クローン・ケーク(両面太鼓)」による生演奏(サラーマ)が鳴り響き、ラウンドが進むにつれてテンポが加速して闘争心を煽ります。
さらに両者を決定的に隔てているのが採点基準(ジャッジシステム)です。
ムエタイは現地タイの賭け文化(スタジアムでの合法的な賭け)と密接に結びついて発展した経緯があります。第1〜第2ラウンドは賭け率の調整や相手の見極めとして静かに推移し、第3〜第4ラウンドの激しい攻防が判定の8割以上を左右するという独特の配分構造を持っています。また、手打ちのジャブやローキックよりも、体幹に強くヒットするミドルキックや、相手を無力化する首相撲からの膝蹴り、相手を無様に転倒させる崩し技(スイープ)に極めて高いポイントが与えられます。
一方、キックボクシングは毎ラウンドを10点満点の減点方式(テンポイント・マストシステム)で厳密に採点します。1ラウンド目から最終ラウンドまで、パンチのコンビネーションやローキックの手数、相手を下がらせるアグレッシブネスが均等に評価されるため、序盤からハイペースな打撃の応酬が展開されます。