『山月記』の物語は、唐代の中国を舞台に展開します。天賦の才を持ちながらも誇り高き青年・李徴(りちょう)は、若くして科挙に合格する秀才でした。しかし、官吏としての地位に満足できず、詩人として名を残そうと職を辞して隠遁生活に入ります。生活は困窮を極め、妻子を養うために再び下級官吏へと戻るものの、かつての同僚の下に甘んじる屈辱に耐えかね、旅先で発狂して消息を絶ちました。
それから1年後、監察御史となった李徴の旧友・袁傪(えんさん)が山道を通りかかった際、一頭の猛虎に襲撃されます。虎は袁傪の姿を見るや草むらに身を隠し、人間の声で「あぶないところだった」とつぶやきます。その声の主こそ、虎へと変わり果てた李徴でした。
草むらの中から響く旧友の声を通じて、李徴は自らが虎へ変貌した経緯や、人間としての理性が薄れゆく恐怖、そして自作の詩を世に残したいという切実な執念を袁傪に語り明かします。夜明けとともに二人は永遠の別れを告げ、袁傪が振り返った山頂の岩の上には、月を仰ぎ咆哮する一頭の虎の姿がありました。