従来の健康保険証の新規発行が停止され、マイナ保険証(マイナンバーカードの保険証利用)が社会に定着した現在、「マイナ保険証さえ出せば、過去の処方データが画面で見られるのだから、紙のお薬手帳はもう要らないのではないか?」という疑問を持つ方が急増しています。
結論から述べると、マイナ保険証があってもお薬手帳は絶対に手放してはいけません。両者には医療安全上の決定的な違いが存在します。
最大の相違点は「情報の即時性」と「記載できる範囲」です。マイナ保険証を通じて医療機関や薬局が閲覧できる調剤情報は、原則として社会保険診療報酬支払基金などの審査支払機関を経由した「レセプトデータ」を基盤としています。そのため、直近数日から最大1ヶ月前後に処方された最新の薬剤情報がリアルタイムで反映されていないタイムラグが生じます。
さらに、マイナ保険証のデータベースには、ドラッグストアで購入した一般用医薬品(市販薬・OTC医薬品)やサプリメントの服用歴、日々の血圧の推移、患者自身が気付いたアレルギー反応のメモなどは一切記録されません。急性疾患で他院にかかり数日前に抗生物質を処方されたばかりのケースや、市販の頭痛薬と病院の処方薬の飲み合わせを確認したい場合、手元に紙やアプリのお薬手帳がなければ医師や薬剤師は重複や相互作用のリスクを即座に判断できません。
加えて、大規模地震や水害による停電時、通信回線がダウンした被災地での医療現場では、オンライン資格確認端末が一切機能しなくなります。阪神淡路大震災や東日本大震災、能登半島地震などの過去の教訓からも証明されている通り、電力が断絶された極限状況下で命を救うのは、紙の手帳に刻まれた過去の処方記録です。デジタルとアナログを補完し合うことこそが、現代における最強のリスク管理と言えます。