タトゥーを持つ人々が入場を拒まれる際、多くの施設が「公序良俗」や「他のお客様への配慮」を理由に挙げる。しかし法的な根拠を洗っていくと、意外な事実が浮かび上がる。公衆浴場を管轄する公衆浴場法や、衛生基準を司る厚生労働省のガイドラインには、刺青やタトゥーの存在そのものを理由に入場を一律制限する条文は存在しない。衛生上のリスクがないにもかかわらず、入場制限はあくまで各事業者の自由裁量に委ねられている。
身体装飾の歴史に詳しい都留文科大学の山本芳美教授が指摘するように、日本社会における刺青への忌避感は、江戸時代の刑罰や昭和中期の暴力団対策法以降に醸成された「威嚇の記号」という認識に根深く縛られている。伝統工芸としての彫り物を芸術の域へと昇華させた三代目彫よしのような名匠の作品であっても、商業施設の前では等しく「排除対象」として処理されてきた歴史の歪みが、今なお施設側の規約に色濃く影を落としている。