公判における最大のミステリーが、ドンファン覚醒剤摂取の謎です。覚醒剤は非常に苦味が強く、水や酒に溶かして無警戒に飲ませることは困難とされています。検察側は「ビールや食事に混ぜた、あるいはカプセル状にして飲ませた」と推認するものの、決定的な混入手段は特定されていません。
法廷で緊迫した空気をもたらしたのが、ドンファン家政婦の証言でした。長年仕えていた家政婦は、法廷で事件当日の夕食時の様子を詳細に語っています。「社長(野崎氏)は普段通りビールを飲み、食欲もあった。須藤被告とは会話らしい会話もなく、冷え切った空気が漂っていた」と証言。さらに、夕食後に家政婦が1階の片付けをしている間、2階の寝室には野崎氏と須藤被告の2人しか出入りできない状況だったことが明かされました。
「社長は覚醒剤のような違法薬物を心底嫌っていた。自ら飲むなど絶対にあり得ない」という家政婦の言葉は、検察側の主張を強く補強しました。野崎氏が生前に残した自著『紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男』でも、「金で女を買うのは自分の美学だが、クスリや暴力で人を支配する輩は一番軽蔑する」と綴っており、自発的な摂取説に対する大きな反論材料となっています。