根元から生えてくる若枝を「樹木が元気な証拠」と誤解し、そのまま放置してしまう庭主は少なくありません。しかし、これこそが庭木を枯死へ導く最大の落とし穴です。
樹木には、最も高い位置にある頂芽の成長を優先させ、側芽の成長を抑制する「頂芽優勢(ちょうがゆうせい)」という植物ホルモン制御が存在します。ところが、ひこばえが急激に伸長すると、根で吸収された水分・チッソ成分などの無機養分が、上層の主幹や樹冠へ届く手前の「根元」で物理的に横取りされてしまいます。養分を奪われた親木の上部は次第に葉の密度が下がり、光合成量が激減。やがて主幹の枝枯れが連鎖し、数年後には「ひこばえだけが異常に太くなり、本来の親木が枯れ果てる」という主客転倒の事態に陥ります。
特に危険度が高いのが、接ぎ木苗で作られた園芸品種です。日本国内で流通するバラ、モミジ、サクラ、柑橘類やリンゴなどの果樹の85%以上は、強健な野生種の根(台木)に目的の品種を接ぎ木して生産されています。
接ぎ木部分より下(台木部分)から発生したひこばえは、本来の園芸品種ではなく野性味の極めて強い台木そのものです。これを放置した場合、台木の生命力が園芸品種を圧倒し、数年で本来の花や実がつかなくなるばかりか、接ぎ木した上部が完全に壊死して野生種に先祖返りしてしまいます。