現在、道真を祀る二大聖地である福岡の太宰府天満宮と京都の北野天満宮には、国内外から年間数百万人を超える参拝者が訪れます。現地に足を運ぶと、道真の悲劇がいかにして「救済と学問の象徴」へと昇華されたのかが実感できます。
太宰府天満宮の本殿右前に現在も静かに佇む「飛梅」は、樹齢千年を超える白梅のご神木です。社頭で見守る参拝客の会話に耳を傾けると、「教科書で読んだ東風吹かばの梅が本当にあるんだ」という感嘆の声が絶えません。冬の厳しい寒風が吹き抜ける1月、まだ他の木々が固い蕾を閉じている最中に、この飛梅だけが真っ白な花びらをほころばせます。この光景は、1000年以上前の道真が歌に託した「春な忘れそ」の言霊が、今なお呼吸を続けているかのような錯覚を抱かせます。
一方、都を追われた道真の怨霊を鎮めるために創建された京都の北野天満宮でも、境内には約50種・約1,500本の梅が植樹されています。怨霊として朝廷を震え上がらせた「祟り神」が、やがてその非凡な学識ゆえに「至誠・学問の神」へと転換していった歴史は、日本人が抱く死生観と敗者への鎮魂文化の深さを示しています。