栄養価のない物質を衝動的に摂取する病態は医学的に異食症(Pica)と総称され、氷食症はその代表格として知られる。気温に関係なく氷を無性に食べる理由の根底にあるのは、体内の酸素運搬や代謝を司る鉄欠乏性貧血である。
体内から鉄が枯渇すると、赤血球内のヘモグロビンが減少し、脳へ十分な酸素が届かなくなる。その結果、自律神経を司る視床下部の体温調節中枢に機能異常が生じる。脳内の温度上昇を錯覚して冷却を求めたり、あるいは脳血流を一時的に活性化させるための代償行為として「氷を噛み砕く刺激」を無意識に欲するようになると考えられている。
見落とされやすいのが、通常の健康診断で測定されるヘモグロビン値が見かけ上は正常範囲内にある「かくれ貧血」の存在だ。肝臓や骨髄に蓄えられるフェリチン不足が進行すると、中枢神経系や組織レベルでの鉄不足が引き金となり、強烈な氷への渇望が生じる。これに加えて精神的な負荷や過労が重なると、自律神経の乱れが拍車をかけ、強迫的な咀嚼行動へと発展する。