胸に痛みを感じてインターネットで検索した際、ネット上に氾濫する断片的な情報によって不要な恐怖に怯えたり、逆に命に関わるリスクを過小評価したりするケースが多発しています。現場の医療従事者が指摘する、代表的な3つの誤解を正します。
誤解1:「胸を押したときにズキッと痛むから心臓発作の前兆だ」
「胸痛があるとき、自分の指で痛む場所をグッと押したら激痛が走った。心臓が危険な状態なのではないか」と恐怖を抱く人がいます。しかし、これは解剖学的に正反対の誤解です。
指で押して痛みが増悪する(圧痛がある)場合、原因のほとんどは肋軟骨炎(ティーツェ病)、肋間筋の筋膜損傷、あるいは肋骨の疲労骨折といった「骨・関節・筋肉」由来のトラブルです。心臓は肋骨と胸骨で守られた胸腔の深部に位置しており、体表から指で押したからといって心筋の虚血痛が直接強まることは構造上あり得ません。押して痛い場合は整形外科的疾患の可能性が高く、過度なパニックに陥る必要はありません。
誤解2:「自分は若く、健康診断で心電図も異常なしだったから心臓病はあり得ない」
「20代や30代の若手ランナーだから虚血性心疾患とは無縁」「毎年の健診で心電図に異常がないから大丈夫」という思い込みも危険な盲点です。
一般的な健康診断で行われる心電図検査は、ベッドの上で横になった「完全安静時」に数十秒間記録するだけのものです。安静時に血流が維持されている初期〜中期の狭心症では、安静時心電図に何一つ異常が現れないことが通例です。実際に心臓へ負荷をかける「トレッドミル運動負荷心電図」を行って初めて、走行時のST低下(虚血シグナル)が浮き彫りになります。また、若年層であっても、喫煙歴やストレス、寒暖差が引き金となって冠動脈が一時的に痙攣・攣縮を起こす「冠攣縮性狭心症」や、遺伝的要因が関与する「肥大型心筋症」による運動誘発性胸痛は確実に存在します。
誤解3:「息を止めて走ったら痛みが消えたから単なる横腹の痛み(差し込み痛)だ」
ランニング中の胸痛を、初心者によくある「横腹の差し込み痛」と混同する人も多く見られます。横腹の痛みは横隔膜への血流不足や内臓の揺れ、大腸内のガス貯留などが主因ですが、痛みが胸郭の肋骨下部や中央部へ広がることもあります。しかし、痛みを我慢してペースを上げ続け、もし原因が心肺疾患であった場合、急激な心室細動(致死的不整脈)を誘発してその場で倒れ込むリスクを孕んでいます。「痛みを試すような無理な走り方」は絶対に厳禁です。