創業オーナー企業において、子や娘婿へ会社を継がせる世襲は珍しくありません。しかし、稲盛氏は創業当初から「同族経営の排除」を明確に打ち出していました。その背景には、稲盛経営哲学の根幹をなす3つの強固な思想が存在します。
1. 「会社は経営者の私物ではなく、社員と社会の公器」
稲盛氏が掲げた経営理念は「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類・社会の進歩発展に貢献すること」です。自らの血縁者という理由だけで能力の担保されない身内をトップに据えることは、命を預けて働く数万人の従業員に対する重大な背信行為であると考えていました。
2. 実力主義と「動機善なりや、私心なかりしか」の徹底
京セラには「アメーバ経営」に代表される、徹底した透明性と独立採算の仕組みが根付いています。現場で汗を流し、リーダーシップと人格を磨き上げた生え抜きの幹部がトップに立つべきであり、創業者一族への忖度や特権階級の存在は組織のモラルを著しく崩壊させると見抜いていたのです。
3. 盛和塾でも貫かれた「一代限り」の引き際
稲盛氏が私財を投じて立ち上げ、世界で約1万5,000人もの経営者が学んだ「盛和塾」も、2019年末に惜しまれつつ解散しました。「稲盛和夫の教えを伝える場であり、自身が高齢となった以上、名前を冠した組織を子孫や他人に引き継がせて変質させてはならない」という判断によるものです。この徹底した公私の峻別こそが、娘たちを経営から遠ざけた最大の理由でした。