飲食業界の常識では、「活魚居酒屋」と「洋食レストラン」は完全に分断されたカテゴリーとして扱われます。前者は刺身包丁と生簀の海水温度管理が命であり、後者はデミグラスソースの煮込みやフライの揚げ分けといったフレンチ・洋食の技法が要求されるためです。厨房設備も仕入れルートも異なる二つの柱を、同一店舗で高水準に成立させることは極めて高いハードルを伴います。
この二律背反を軽やかに越えてみせた点こそ、いけす洋風茶屋いまむらが人気の理由にほかなりません。佐世保という街は、明治期の鎮守府設置以来、海軍がもたらした西洋料理の伝統と、五島灘や西海の魚介類という日本有数の一次産業資源が自然に交わってきた歴史的土壌を持ちます。
家族社会学の観点から見ると、地方都市における多世代会食では「祖父母はさっぱりした鮮魚を食べたいが、食べ盛りの孫はジューシーなハンバーグやフライが食べたい」という激しい世代間コンフリクトが日常的に発生します。いまむらはその対立を一つのテーブルで鮮やかに調和させる「家族の合意形成スペース」として機能してきました。誰一人として妥協することなく、本格的な料理を囲むことができる設計こそが、半世紀近くにわたり地域住民の胃袋と信頼を掴んできた決定打といえます。