抜毛行為が止まらない決定的な理由は、行為そのものが脳内で「緊張の緩和」や「一過性の快感」をもたらす強力な自己鎮静メカニズムとして学習されている点にあります。米国精神医学会の診断基準(DSM-5-TR)において、抜毛症は「強迫症および関連症群」に分類されており、爪噛みや皮膚むしり症と同じく、身体集中反復行動症(BFRB)の一角を占めています。
抜毛のパターンは大きく2つに大別されます。1つは、読書中やテレビ鑑賞時、デスクワーク中などに完全に我を忘れて行う「無意識型(オートマチック)」。もう1つは、「手触りがざらついた毛を探し出す」「毛根が太い毛を抜きたい」という強いこだわりから実行に移す「意識型(フォーカス)」です。いずれのケースでも、指先の触覚刺激が脳の側坐核を刺激し、ドパミンが微量に放出されることで、無意識のうちに報酬系回路が強化されてしまいます。
抜毛症の原因としてストレスが頻繁に挙げられますが、臨床現場の分析では、外部からの過度なプレッシャーだけでなく「過蓋緊張(退屈や手持ち無沙汰による刺激不足)」も同等に大きな引き金になることが判明しています。さらに症状は頭髪にとどまらず、眉毛やまつげを対象とするケースも多く見られます。特に眉毛・まつげの抜毛は顔の印象を大きく変えてしまうため、当事者が対人関係において抱く恥恥感や抑うつを急速に深刻化させる要因となっています。