インターネット上のしつけ情報や古い飼育マニュアルには、今なお次のような言説が散見されます。
「愛犬を同じベッドで寝かせると、自分と同格だと勘違いして飼い主を舐めてかかるようになる」
「犬に顔の近くで寝かせるのは主従関係崩壊の第一歩である」
結論から申し上げますと、現代の動物行動学において「添い寝が原因で主従関係が崩壊する」という説は明確に否定されています。
犬が飼い主を軽視する(いわゆるアルファシンドロームとされる)問題行動の本質は、日頃のルールの曖昧さや一貫性のない接し方、適切な運動・刺激の不足にあります。寝る場所の物理的な高さや近さだけで、犬が人間を支配しようとするような単純な構造は存在しません。
むしろ、無理に引き離してケージに閉じ込めることで強い孤立感や恐怖を与え、かえって飼い主への不信感や攻撃性を増長させるケースすら報告されています。問題は「一緒に寝ることそのもの」ではなく、「飼い主の指示で自分の寝床に移動できるか」「触られたときに唸るなどの所有権主張(リソースガーディング)がないか」という、日常の境界線の質にあるのです。