物語の起点となるのは、ケニア北部トゥルカナ湖の荒野で発見された凄惨な死体です。殺害されたのは、ナイロビ在勤の英国外交官ジャスティン・クエイル(演:レイフ・ファインズ)の若き妻であり、情熱的な人権活動家だったテッサ(演:レイチェル・ワイズ)。同行していた黒人医師アーノルド・ブルームの姿が消えていたことから、現地の外交官社会では「痴情のもつれによる逃避行と破滅」という卑劣な噂が瞬く間に拡散しました。
しかし、趣味のガーデニングに逃避し、波風を立てぬことだけを行動原理としていた温厚なジャスティンは、妻が遺したノートパソコンや私信を手がかりに、独自の追跡を開始します。そこで浮き彫りになったのは、妻の不義などではなく、命を賭して巨大な陰謀を暴こうとしていた気高い告発者の姿でした。
テッサが追っていたのは、巨大多国籍製薬企業「KDH社(現地名スリー・ビー社)」が開発した画期的な結核治療新薬「ディプラクサ(Dypraxa)」の恐るべき真実です。ディプラクサには肝不全や失明、多臓器不全を引き起こして患者を死に至らしめる深刻な副作用が存在していました。しかし、数千億円規模の世界的特許利益を見込む企業側と、ケニアにおける英国の外交的影響力・利権を最優先するイギリス外務省の現地トップらは結託。副作用のデータを改ざんし、ナイロビ最大のキベラ・スラムに暮らす貧困層の患者たちへ「無料のエイズ・結核治療薬」と偽って投与する非人道的な臨床試験(人体実験)を強行していたのです。
テッサはこの決定的な証拠書類をまとめた「告発レポート」を作成し、ロンドンの外務省高官バーナード・ペレグリンに送付して事態の是正を直訴しました。しかし、それこそが致命的な過ちでした。ペレグリンこそが製薬会社と癒着し、アフリカでの治験継続を政治的に後押ししていた黒幕の首魁だったのです。テッサの告発は即座に裏切りとみなされ、現地の情報機関および雇われた暗殺集団によって、同行していたアーノルド医師とともにトゥルカナ湖畔で惨殺される結果となりました。
全ての真相と証拠を入手したジャスティンは、命の危険が迫る中で逃亡する道を選びませんでした。彼は手に入れたすべての機密書類とテッサの告発状の複写を、信頼できる旧友を通じて世界中の主要報道機関へと郵送します。そして自らは、テッサが命を奪われたまったく同じ場所であるトゥルカナ湖の荒涼とした大地へと戻っていきました。
湖のほとりで静かに風に吹かれながら、愛する妻の記憶と対話するジャスティン。遠方から彼を暗殺するために接近してくる雇われ傭兵たちのジープを視界に捉えながらも、彼は一切の抵抗も逃亡も試みません。妻の愛した大地で死を受け入れることこそが、彼女の魂と永遠に同化する唯一の道だったからです。映画の幕切れ、ロンドンの教会で執り行われた追悼ミサの席上、ジャスティンの弁護士が参列者の前でテッサの告発状を読み上げ、参列していた外務省幹部ペレグリンらの癒着と犯罪が白日の下に晒されます。ジャスティンとテッサの命を賭した告発は、ついに腐敗した権力中枢を撃ち抜いたのです。