大阪IR計画において、なぜ中核パートナーであるオリックスに「撤退説」が浮上し続けたのか。その最大の震源地は、大阪府・市と事業者の間で締結された実施協定に盛り込まれていた「解除権(いわゆる撤退権)」の存在です。
協定書には当初、観光需要の回復遅れ、国の認定の遅れ、さらには土壌汚染や液状化対策費の膨張といった重大な事業環境の変化が生じた場合、事業者は違約金なしでプロジェクトから撤退できる権利が明記されていました。オリックス首脳陣が決算説明会やメディアインタビューにおいて「事業環境を冷徹に見極める」「無理なリスクテイクはしない」と繰り返し発言したことで、市場関係者の間では「オリックスが土壇場で手を引くのではないか」という疑心暗鬼が広がりました。
リース事業を祖業とし、徹底したリスク管理と分散投資で企業価値を高めてきたオリックスにとって、単一案件に数千億円規模のエクイティ(自己資本)と借入保証を投じる事業構造は異例です。実際、新型コロナ禍によるインバウンド蒸発や、その後の世界的なインフレによる建設費高騰が直撃した局面では、経営陣内部でも投資規律を巡る激しい議論が交わされたことが報道各社の取材で明らかになっています。
最終的に準備工事への着手および契約更新を経て解除権を放棄し、事業推進を確定させたものの、この過程で見せた「過度なリスクを許容しないファイナンスのプロとしての冷徹な交渉姿勢」こそが、撤退懸念という形で世間に伝播した真相でした。