古代エジプトのミイラが脳や内臓を摘出し、天然炭酸ナトリウム(ナトロン)や樹脂を用いて人工的に防腐処理を施しているのに対し、ラ・ドンセジャをはじめとするユーヤイヤコの子供たちには、人工的な加工の痕跡が一切ありません。内臓も脳も、生前の配置のまま体内に完璧に残されています。
彼女たちが500年もの間、腐敗することなく「生前の姿」を維持できた決定的な理由は、ユーヤイヤコ山頂という極限環境が生み出した、天文学的な確率の自然現象にありました。
第一の要因は、年間を通じて氷点下を維持する超低温環境です。山頂の気温は夏場でも氷点下、冬にはマイナス30度から40度近くまで冷え込みます。遺体は埋葬直後から急速に冷凍され、細胞の崩壊が瞬時に停止しました。
第二の要因は、極度の低酸素と強い乾燥風です。標高6,700メートル超の大気圧は平地の半分以下しかなく、空気中の酸素濃度も極めて希薄です。これによって、死体の腐敗を進行させる細菌やバクテリアが活動・増殖できない無菌に近い環境が形成されました。さらに、山頂特有の乾燥した強風と火山灰を多く含む地質が、遺体の水分を氷の結晶から直接気化させる「昇華現象」を促し、最高品質の天然フリーズドライ状態を完成させたのです。
この保存状態の凄まじさを証明するのが、ユーヤイヤコの子供たちの血管内に残されていた血液です。後の生化学調査において、ラ・ドンセジャの血管から採取された血液サンプルからは、凝固していない赤血球や白血球、さらには免疫抗体までもが検出されました。500年前の血液細胞がそのまま採取できるなど、生体医学の常識ではあり得ない奇跡でした。