読者の多くが抱く最大の疑問は、「トイレットペーパーは木材(パルプ)から作られているのに、なぜ原油価格高騰で買い占められたのか?」という点です。調査報道の観点から構造を整理すると、3つの複合的な理由が浮かび上がります。
第1に、「行政の節約呼びかけによる不安の種まき」です。1973年10月に第四次中東戦争が勃発し、OPEC(石油輸出国機構)が原油価格の大幅引き上げと供給削減を通告。これを受け、当時の通商産業省(現・経済産業省)の中曽根康弘通産相が記者会見で「紙や電力の節約」を強く国民に要請しました。「国が節約を訴えるほど状況は深刻なのか」という受け止めが、市民の警戒心を一気に引き上げました。
第2に、「半分の真実(ハーフ・トゥルース)がデマを補強した構造」です。確かに紙の繊維そのものは木材ですが、パルプを漂白・加工する製紙工場のボイラーには大量の重油が使われ、製品を店舗へ運ぶトラックにもガソリンや軽油が必要です。「石油が止まれば製紙工場も止まり、紙が作れなくなる」というもっともらしい論理が、人々の間で急速に説得力を持ってしまいました。
第3に、「高度経済成長期のインフレ懸念」です。当時の日本は列島改造ブームに伴う地価・物価の上昇(狂乱物価)の最中にありました。「明日には価格が2倍になるかもしれない」「手元に現物を持っておかなければ生活が破綻する」という切迫した防衛本能が、生活必需品である紙の確保へと人々を駆り立てたのです。