トランペットを演奏していて「チューナーの針がどうしても大きく右(プラス側)に振り切れてしまう」という音があります。それが五線の下にある「低いレ(D4)」と「低いド♯(C♯4)」です。初心者や独学の奏者は「自分のアンブシュアや息の入れ方が悪いのではないか」と悩み、口先で無理やりピッチを下げようとしてアンブシュアを崩してしまうケースが後を絶ちません。
しかし、これは奏者の技術不足ではなく、金管楽器の構造が抱える音響学的な宿命です。この現象を解決する仕組みこそが、音程が劇的に安定する決定的な理由であるトランペット第3トリガー使い方に直結しています。
なぜ「1+3番」で押す低いレや、「1+2+3番」で押す低いド♯は異常なまでにシャープ(音程が高く)なるのでしょうか。その真相は「管の長さの足し算における比率の狂い」にあります。
トランペットの開放状態の基本管長は約148cmです。1番ピストンは約18cm、3番ピストンは約28cm管を延長します。それぞれ単独で使う分には、開放の基本管長に対して適切な比率で音が下がるよう設計されています。しかし、1番と3番を同時に押すと、管全体の長さはすでに148cm+18cm=166cmへと長くなっています。長くなった管に対して音を正確に半音3つ分下げるためには、本来もっと長い延長管が必要になります。ところが、3番ピストンの抜差管は「元の基本管長(148cm)」を基準にして作られているため、物理的な管の長さが決定的に足りなくなるのです。
その結果、補正を行わなければ、低いレは約15〜20セント、低いド♯に至っては約25〜35セントもシャープします(※100セントで半音)。これを唇だけで無理に下げようとすると、響きがこもり、バズィングの芯が失われてしまいます。
そこで必須となるのが、左手薬指(または小指)を掛けている第3抜差管のスライド機構(トリガー)です。
- 低いレ(1番+3番):スライドを外側へ約1.0cm〜1.5cm押し出し、物理的に管を延長してから息を吹き込む。
- 低いド♯(1番+2番+3番):スライドを外側へ約1.5cm〜2.5cmしっかりと押し出し、大幅な管長不足を相殺する。
音を鳴らした後に慌ててスライドを動かすのではなく、「その指を押すと同時にスライドを抜き、吹き終えた瞬間にバネまたは指の引きで元の位置に戻す」という一連の動作を身体に染み込ませること。これこそが、合奏の中でトランペットセクションのハーモニーが濁らず、プロのような澄み切った和音を生み出す最大の秘密です。