精講シリーズを購入しながら学力が向上しない受験生には、認知心理学および言語習得論の観点から明確な共通項が確認できます。最大の原因は、「全訳の流し読みによる理解の錯覚」と「ワーキングメモリの枯渇」です。
医学部受験指導の現場である松濤舎の教材分析でも鋭く指摘されている通り、本シリーズ(特に入門を除く基礎・標準)は、近年のトレンドである「すべての英文にSVOCの記号とスラッシュを付与した詳細な構文図解」を売りにはしていません。要所となる難解な文構造の解説や語句注記、背景知識の解説は極めて秀逸であるものの、文全体の文構造を1文ずつ解きほぐす手取り足取りのレイアウトではないのです。
英文読解において、人間の脳は「単語の意味想起」「文法・構文の解析」「文脈・論理展開の統合」という3つの処理を同時に行います。構文把握が自動化されていない受験生が本書の重厚な英文を読むと、文法処理に脳のワーキングメモリ(作業記憶)を限界まで奪われ、文章全体の主張を追う余裕が完全に消失します。その結果、「解答の全訳を読んで『なるほどそういう意味か』と分かった気になり、自力で構造を見抜く力は1ミリも伸びていない」という学習の空洞化が発生するのです。